『宇宙兄弟』がこれほどまでに多くの人々の心を捉えて離さなかった理由は何か。それは徹底した取材に基づく科学的リアリズムと、圧倒的な人間観察の眼差しにある。訓練の厳しさや組織の壁、技術的トラブルはもちろん、宇宙飛行士たちが抱える心理的圧力に至るまで、徹底して生々しく描かれてきた。
作品を象徴する「ドーナツの穴」の心理描写に代表されるように、足りないものや失ったものに囚われるのではなく、今ある希望に目を向ける姿勢。それこそが、激動の時代を生きる読者にとっての「生の指針」となっていたことは疑いようもない。