当時のスポーツ紙記者たちは、千代の富士の異変を敏感に察知していた。前年の11月場所で通算1000勝を達成したものの、翌1991年に入ると休場が目立つようになる。初場所を途中休場し、春場所は全休。そして迎えた夏場所、初日に新鋭・貴花田に敗れ、3日目に貴闘力に寄り切られた直後、彼は決断を下した。
会見場に現れた千代の富士の表情は、どこか憑き物が落ちたように穏やかだった。しかし、マイクを前にした瞬間、男の目に涙が浮かぶ。絞り出すような声。短い言葉の中に、すべてが詰まっていた。あの瞬間、テレビの前の誰もが、一人の英雄の終わりと、一つの時代の終焉を同時に目撃したのである。