大河ドラマ『龍馬伝』において、香川照之氏が熱演した岩崎弥太郎の姿を記憶している人は多いだろう。泥臭く、情念に燃え、坂本龍馬に対する嫉妬と憧れを原動力に突き進む姿は強烈な印象を残した。だが、エンターテインメントが描く情熱劇の裏には、冷徹極まりない複式簿記の導入や徹底した情報収集ネットワークの構築という、乾いたリアリズムが存在した。
弥太郎が残した日記や書簡を精読すると、感情に任せたギャンブルは一切排除されていたことがわかる。数字に裏打ちされた勝算のない勝負は決してしない。敵対勢力の買収工作、官僚へのロビー活動、海外市場の相場分析に至るまで、全ては計算尽くされていた。浪花節の物語の裏に隠されたこの冷徹なシステム志向こそが、合資会社へと結実した三菱の真の遺伝子である。