熊本県下益城郡美里町坂本に位置する「釈迦院御坂遊歩道」は、通称「日本一の石段」として広く知られています。そのスペックは圧倒的で、総段数3,333段・全長1,911m・標高差約620m。ビルに換算するとおよそ50階〜60階分に相当する高低差を一気に直登する構造です。観光庁や自治体の観光マップでは気軽なウォーキングコースのように紹介される場面も見受けられますが、その実態は「超高強度のバーティカル・トレーニング場」そのものです。
登頂にかかる所要時間の目安は、一般的な成人男性・女性の平均で登り約1時間30分〜2時間、下り約1時間〜1時間20分、休憩を含めた往復ではおよそ2時間30分から3時間半が標準値となります。普段からトレイルランニングや陸上競技で鍛えているアスリートであれば登り40分〜50分台で踏破することもありますが、運動習慣のない初心者が挑むと登りだけで2時間半以上を要し、途中で足が攣って動けなくなるケースも珍しくありません。
この石段の過酷さを決定づけているのが、傾斜の急激な変化です。序盤の300段付近までは緩やかなピッチで進むものの、中盤の1,500段を超えたあたりから斜度が急増します。一段一段の蹴上げ(高さ)や踏み面(奥行き)が均一ではなく、自然石を多用しているため、常に足元への神経集中を強いられます。運動生理学的な観点から見ても、大腿四頭筋・臀筋群・ヒラメ筋への筋収縮負荷が連続し、開始15分ほどで無酸素運動領域に近い乳酸蓄積が起こる点が、このコースが「地獄の階段」と称される最大の要因です。