華やかさを競う宮殿とは対照的に、武骨で質実剛健な佇まいでアイゼナハの山頂に立つのがヴァルトブルク城だ。1067年の創建以来、千年にわたるドイツの歴史の激浪を見守り続けてきた。
この城が世界史に決定的な足跡を残した瞬間、それは16世紀の宗教改革の真っ只中であった。カトリック教会から追放され、身の危険に晒されたマルティン・ルターが「騎士ゲオルク」の偽名でこの要塞に潜伏。わずか数ヶ月間で新約聖書のドイツ語訳を書き上げた場所こそ、城内の一角に残る小さな部屋だ。ラテン語を読めない民衆に言葉を開放したルターの快挙は、現代の言語体系の基礎を築いた。武骨な石垣の中に流れるのは、芸術美とはまた異なる、精神の変革を支えた信念の歴史である。