圧倒的な体躯を誇るヒグマだけでなく、本州に生息するツキノワグマにおいても肉食への傾斜は顕著だ。秋田や岩手の山中では、子鹿を巧みに追い詰めて仕留めるツキノワグマの姿が定点カメラに捉えられている。かつて「おとなしい森の住人」と牧歌的に語られた姿は、そこにはない。
長年フィールドで熊の生態を観察し続けている日本ツキノワグマ研究所の米田一彦氏は、現場に残された遺留物や襲撃パターンから、肉食性を強めた個体の危険性を繰り返し指摘してきた。とりわけ一度でも大型哺乳類の肉を飽食した個体は、執着心と攻撃性が跳ね上がる。北海道でヒグマが放牧牛を次々と襲撃した事件が物語るように、一度「狩る側」としての成功体験を得た熊は、人間が張り巡らせた防除網をあざ笑うかのように突破してくる。