ヤマアラシの針が持つ真の恐ろしさは、刺さった後の挙動に潜んでいる。特に北米に生息するアメリカヤマアラシの針の先端を顕微鏡で拡大すると、人間の目では捉えきれない微小な「返し(バーブ)」が無数に並んでいることがわかる。
このマイクロスケールの返し構造には、二つの驚くべき特性がある。第一に、獲物の肉体に刺さる際の抵抗値を大幅に低減させる効果。そして第二に、一度刺さると逆方向へ抜けなくなる強力なロック機能だ。
相手の筋肉が収縮・弛緩を繰り返すたびに、針は抜け落ちるどころか、ジワジワと肉体の奥深くだけへと突き進んでいく。体内に入り込んだ針が重要な器官や血管を傷つけ、最悪の場合は感染症や内臓破裂によって死に至らしめる。だからこそ、経験豊富な大型肉食獣ほどヤマアラシとの接触を本能的に避けるのだ。