日本全国のバス事業者において、車内両替機を縮小・廃止する動きや、新紙幣への対応を見送る事例が相次いでいます。これには複数の構造的要因が絡み合っています。
1. 新紙幣対応に伴う巨額の設備更新コスト
2026年7月に発行された新紙幣(千円札:北里柴三郎、五千円札:津田梅子、一万円札:渋沢栄一)を読み取るためには、運賃箱の紙幣識別センサー(バリデータ)の改修や機器全体の更新が不可欠です。業界関係者の証言によると、バス1台あたりの運賃箱改修費用は約30万円〜100万円以上に達します。数百台規模の車両を抱える事業者にとって数千万円から億円単位の設備投資となり、赤字路線を抱える地方事業者にとって致命的な財務負担となっています。
2. 運転手の業務負荷軽減と「2026年問題」
自動車運転業務の時間外労働規制強化に伴い、バス業界では深刻なドライバー不足とダイヤ維持の危機に直面しています。車内での現金両替は、停車時間の長期化(バス遅延の主因)を招くだけでなく、両替機の紙幣詰まりや硬貨補充といった乗務員の付帯業務を増加させます。国土交通省の報告資料でも、キャッシュレス化による1停留所あたりの停車時間短縮効果が明確に実証されており、定時運行確保のために現金収受を減らすことが急務となっています。
3. キャッシュレス決済の普及と完全キャッシュレスバスの認可
国土交通省が推進する「完全キャッシュレスバス実証運行」の成果を受け、現金決済の利用率は全国平均で10〜20%未満にまで低下しています。交通系ICカード(Suica、PASMO、ICOCAなど)に加え、クレジットカード等のタッチ決済(EMVコンタクトレス)の導入が進んだことで、「高額な維持費をかけて車内両替機を維持する合理性」が失われつつあるのが実態です。