テニス界において「技巧派」と呼ばれる選手は数多く存在しますが、伊藤あおい選手のスタイルは既存の枠組みを完全に超越しています。最大の特徴は、左右両手打ち(両手フォアハンド・両手バックハンド)から繰り出される予測不能なボール軌道です。相手選手からすれば、インパクトの直前までフラットなのか、ドロップショットなのか、それとも深く滑るスライスなのかが見極められません。
特に相手のリズムを徹底的に破壊するのが、女子ツアー屈指の切れ味を誇る伊藤あおい選手のスライスです。通常のプロ選手が打つスライスとは異なり、打点が極めて低く、バウンド後にほとんど弾まずコートを滑るため、強打を得意とする大型選手は腰を落とすことを強いられ、体力を奪われていきます。元世界ランク1位の選手たちが揃って「まるでチェス盤の上で踊らされているようだ」と舌を巻くほど、彼女は相手のフットワークの隙を突く配球に長けています。
テレビ中継の解説席からも「現代テニスで失われつつあったタッチの妙技」と絶賛されるその戦術は、かつて世界を制した元世界女王マルチナ・ヒンギスや、台湾の名手シェ・スーウェイを彷彿とさせます。力と力の衝突を避け、相手の力を利用してオープンコートへ流し込む。この合理的かつ知的なアプローチこそが、彼女の最大の武器となっています。