映画『レミーのおいしいレストラン』でクライマックスを飾るラタトゥイユには、観客を惹きつけて離さない圧倒的な物語が込められている。一般的なラタトゥイユといえば、ズッキーニやナス、パプリカを大きめに切り揃えてトマトソースで煮込む家庭的な煮込み料理だ。しかし、劇中で出された一皿は、薄切りにされた彩り豊かな野菜が見事な大輪の花のように美しく敷き詰められた、洗練の極みとも言える一品だった。
なぜ大衆的な郷土料理が、気品あふれる極上のひと皿へと変貌を遂げたのか。その裏には「家庭の懐かしい味を現代的な表現で再解釈する」という緻密な演出上の狙いがあった。厳格な料理批評家イーゴを唸らせたのは、豪華な贅沢食材ではなく、素朴な故郷の思い出を呼び覚ます温もりと、それを最高峰の美学へと昇華させた技術の対比だったのだ。