北川町子の真骨頂は、卓越したジャンル適応力にあった。大スター・片岡千恵蔵が机竜之助を演じた不朽のシリーズ『大菩薩峠』において、彼女は虚無と狂気を宿す主人公の運命に寄り添う重要な役どころを務め、重厚な世界観に静かな華を添えた。撮影所関係者の回想によれば、千恵蔵の放つ圧倒的なオーラにも気圧されることなく、本番では息をのむような集中力で丁々発止の芝居を成立させていたという。
また、彼女の活躍は時代劇にとどまらなかった。リアルな警察捜査を描き出して大ヒットを記録したセミ・ドキュメンタリータッチの『警視庁物語』シリーズや、豪華キャストが集結した『任侠清水港』など、現代劇から大衆娯楽の極致まで幅広く出演を重ねた。
東映の看板女優として多忙を極めながらも、役柄ごとに声のトーンや立ち居振る舞いをガラリと変える北川のプロフェッショナリズムは、当時の映画監督たちにとって最も信頼のおける武器の一つとなっていた。