複合パスの存在理由は、デジタル印刷史の原点にまで遡る。アドビ株式会社の共同創業者である故ジョン・ワーノック(John Warnock)が開発したページ記述言語「PostScript」において、ベクターグラフィックスの穴あき表現は極めて重要な数学的課題だった。
コンピュータが図形を塗りつぶす際、どの領域が「内側」でどの領域が「外側」かを判別しなければならない。ジョン・ワーノックらが設計したアルゴリズムは、パスの描画方向(時計回りか反時計回りか)と交差回数を計算することで、物理的に離れた複数の閉じたパスを1つの穴あき構造としてPostScriptプリンタに解釈させた。この数理モデルこそが、現代のAdobe Illustratorにそのまま受け継がれている複合パスの正体である。
見た目はバラバラに存在するパスであっても、ファイル構造の内部では1本の数式データとして記述される。この極限まで削ぎ落とされた設計思想が、40年近く経った現代でもベクター制御の標準規格として君臨し続けている。