二代目市川右近を語る上で欠かせないのが、父である三代目市川右團次との特別な関係性です。父・右團次さんは、かつて「初代市川右近」として三代目市川猿之助(後の市川猿翁)の元でスーパー歌舞伎の立役者として八面六臂の活躍を見せた名優でした。2017年1月、新橋演舞場において、父が「三代目市川右團次」を、実の息子であるタケルくん(当時6歳)が「二代目市川右近」を同時襲名した瞬間は、歌舞伎史に残る名場面として語り継がれています。
家庭内における父子の関係は、愛情深い「親子」であると同時に、容赦のない「師匠と弟子」という二面性を持ちます。稽古場に入れば、父は一瞬の足の運びや指先の角度の狂いも見逃さず、徹底した反復稽古を課します。かつて右團次さんはテレビの密着ドキュメンタリーで「芸の道に親馬鹿は通用しない。看板を背負わせる以上、恥ずかしくない実力を叩き込むのが親としての最大の責任」と厳しく語っていました。
その過酷な師弟関係の間に入り、息子の心身を支え続けているのが母親の存在です。右團次さんの妻である一般女性(元航空会社勤務の経歴を持つ明子さん)は、梨園の妻として裏方に徹しながら、成長期にある息子の栄養管理、学校行事の手続き、精神面のケアを一身に担ってきました。父が厳しく叱責した後は母が静かに寄り添い、家庭内に逃げ場と安心感を作る。この両親の明確な役割分担こそが、二代目右近の精神的な安定と素直な人間性を育んできた最大の要因です。