キャリア半世紀以上を経て、76歳にして初めて映画単独主演を務めた『星めぐりの町』。愛知県豊田市を舞台に、妻を亡くし静かに豆腐作りに励む主人公と、心に傷を負った少年との心の交流を描いたこの作品は、まさに小林稔侍という人間の器そのものだった。
大がかりなアクションも派手なサスペンスもない。ただ、早朝の水に手を浸し、大豆を煮る。その所作の一つひとつに、名優が歩んできた人生の陰影が宿っていた。派手なスポットライトを浴びることだけが役者の価値ではない。名脇役として誰かを支え続けてきた男が、最後に魅せた主役の姿は、多くの映画ファンの胸を震わせた。