紀元前4世紀の古典期ギリシャ。巨匠プラクシテレスが手がけたとされる数々の彫刻作品は、それまでの硬直した神像の概念を鮮やかに覆した。それまでの威厳に満ちた神々の像から一転、彼の生み出すフォルムはどこか人間味を帯び、滑らかなS字の曲線——いわゆる「プラクシテレスのS字ライン」を描き出す。その優雅でアンニュイな佇まいは、当時のギリシャ文化圏全体に衝撃を与えた。
古代ギリシャ美術の発展史において、力強い男性肉体美を誇る古典前期のアルカイックやクラシック様式から、より情緒的で心理描写に富んだ表現への移行を果たした立役者こそが彼である。神であっても孤高の存在ではなく、愛おしさや切なさを秘めた一瞬の情景。そのドラマチックな造形思想が、この傑作の胸部にまで通い合う緻密な温もりとなって結実しているのだ。