日本の膝関節外科およびスポーツ医学のパイオニアである黒澤尚医師(順天堂大学名誉教授)は、数々の臨床現場で「関節の保護は安静にすることではなく、適切な負荷と栄養供給の掛け算である」と説き続けてきた。日本の学術論文プラットフォームJ-STAGEに蓄積された臨床報告を見ても、食事療法単独よりも、適度な大腿四頭筋訓練や関節可動域訓練を組み合わせた群の方が、疼痛スコアの改善率が著しく高い。
関節軟骨には血管が通っていない。軟骨細胞に必要な栄養を届け、老廃物を回収する唯一の手段は、関節を動かした際の圧力変化によって生じる「関節液の循環」だ。どんなに優れた栄養素を摂取しても、座りっぱなしで関節を動かさなければ、その成分は軟骨組織の奥深くまで浸透しない。
スクワットやウォーキングといった無理のない運動で関節液を循環させ、血流に乗って運ばれてきた必須栄養素を軟骨へ届ける。痛みが本格化して歩行困難に陥る前の段階で、この「動いて、食べる」好循環を確立できるかどうかが、10年後のQOL(生活の質)を大きく分ける。