歌舞伎界に対して「血筋がすべてであり、世襲の御曹司でなければ評価されないのではないか」という先入観を持つ人は少なくありません。しかし、これは伝統芸能の生態系における大きな誤解です。
歌舞伎の興行システムでは、名題俳優と呼ばれる実力者たちが舞台のクオリティコントロールを一手に担っています。名題になるためには、長年の舞台経験に加えて、歌舞伎の歴史、台詞、所作、立ち回り、化粧、衣装の着こなしに至る厳しい試験を突破しなければなりません。吉之亮のように名題として舞台に立ち続ける俳優は、いわば「伝統芸能の超一流の技術職」です。
家系図の直系であるかどうかという表面的な情報だけに囚われると、歌舞伎という総合芸術が持つ本当の奥深さや、職人役者たちが紡ぎ出す舞台の妙味を見落とすことになります。