この広大な干潟の歴史を紐解くと、はるか江戸時代初期にまでさかのぼる。当時、幕府を開いた徳川家康は、この海域を「御買物場(おかいものば)」として指定し、獲れたての新鮮な魚介類を江戸城へと献上させた。将軍家の食卓を支えたこの海は、まさに歴史的にもお墨付きを得た豊かな漁場であったのだ。
高度経済致成長期における東京湾沿岸の埋め立てラッシュにより、かつての広大な浅瀬の多くは姿を消した。しかし、地域住民や行政の熱心な保全運動によって、この三番瀬エリアは奇跡的に埋め立てを免れ、今なお残る貴重な自然干潟として保護されている。環境省のモニタリング調査においても、日本屈指のアサリやスベスベマンジュウガニ、底生生物の宝庫としてその重要性が高く評価されている。
潮流がもたらす栄養塩と、豊かな太陽光が注ぐ浅瀬の環境は、目に見えない小さなプランクトンから貝類、そしてそれを餌とする大型の魚類や鳥類まで、強固な食物連鎖の環を形作っている。私たちが足を踏み入れる砂の下には、何億もの生命が息づく小宇宙が広がっているのだ。