なぜエンターテインメント業界では、これほどまでにメンタルヘルスの悪化や睡眠導入剤の処方を受ける有名人の話題が絶えないのでしょうか。芸能関係者への取材や労働環境の分析から見えてくるのは、一般企業の労働環境とは根本的に異なる、特殊な過酷さです。
第1に、昼夜を問わない不規則な労働時間と睡眠リズムの崩壊です。ドラマの深夜・早朝撮影、長距離移動、バラエティ番組の収録待機など、自律神経を狂わせる要因に満ちています。自律神経の乱れはセロトニンやGABAといった脳内神経伝達物質のバランスを崩し、不眠症やパニック発作の引き金となります。
第2に、常に他者からの評価に晒され、プライベートが制限される「心理的バウンダリー(境界線)」の喪失です。特にSNSが普及した現在、24時間リアルタイムで無遠慮な批判や悪意に晒されるストレスは、想像を絶するものがあります。深田恭子氏をはじめとする人気俳優が適応障害による休養を芸能人として発表した事例が相次いだのも、心身の限界を超えて稼働し続けた結果にほかなりません。
かつて芸能界において、精神科や心療内科への通院を公表することは「タブー」とされてきました。「自己管理ができていない」「現場に穴を空けるリスクがある」といった偏見を持たれる懸念があったためです。しかし近年、メンタルヘルスを告白する理由は大きく変化しています。
自身の弱さや闘病を率直に開示することで、同様の苦しみを抱えるファンに「あなただけではない」とメッセージを届け、病気に対する社会的なスティグマ(偏見)を払拭しようとする姿勢が主流となっています。元King & Princeの岩橋玄樹氏がパニック障害での休養と治療を誠実にファンに伝えたように、自らの言葉で語ることが、結果的に自らの尊厳を守り、治療に専念するための防壁となっているのです。