事件が発生してから判決が下るまで、対象者の呼び名は段階に応じて明確に変化します。この変化のプロセスこそが、国家権力による捜査から司法判断への移行過程そのものです。
警察や検察が犯罪の捜査対象としている段階の人物は、法律上「被疑者」と呼ばれます。しかし、昭和後期の放送メディアにおいて「被疑者(ひぎしゃ)」と「被害者(ひがいしゃ)」の音声が酷似しており、視聴者の聞き間違いによる人権侵害や誤解を防ぐ目的から、報道用語として「容疑者」という言葉が広く使われるようになりました。実務上の意味は同一ですが、法律上の正式文書には「容疑者」という文言は登場しません。
立場が決定的に変わるターニングポイントは、「起訴(公訴の提起)」です。日本の刑事司法において、起訴を行う権限は検察官のみが独占しています(国家訴追主義・起訴独占主義)。検察官が捜査資料を精査し、裁判所に対して起訴状を提出したその瞬間、被疑者のステータスは法的に「被告人」へと切り替わります。
日本の刑事裁判では、起訴された場合の有罪判決率が約99.9%という極めて高い水準で推移しています。これは検察官が「有罪判決を確実に得られる十分な証拠が存在する」と判断した事件のみを厳選して起訴(起訴率は全事件の約30%台前半)している実態を裏付けています。だからこそ、被疑者から被告人になるという変化は、当事者にとって人生を左右する最大の分岐点となるのです。