雨に濡れたアスファルト、ネオンの明暗、そして狂気と切なさが交錯するセリフ回し。スクリーンから立ち上るあの匂い立つような空気感は、近年のポップ&ライトなエンタメトレンドに対する強烈なアンチテーゼだった。安易なハッピーエンドを拒絶し、登場人物たちの葛藤を逃げずに描き切った姿勢が、出口の見えない時代を生きる人々の琴線に触れたのだ。
都内の映画館前で終映直後に話を聞いた30代の会社員女性は、目を赤くしながらこう語った。「ただ暗いだけじゃない。暗闇の中にしか存在しない救いがあることを教えてくれた。見終わった後、しばらく立ち上がれなかった」。劇場をあとにした観客たちが一様に抱くその深い余韻こそ、制作陣が数年をかけて仕掛けた最大の美学だったと言える。