インターネット上の掲示板やSNSでは、「国立音大は定員割れしているから全入に近い」「偏差値40台なら誰でも合格できる」といった無責任な言説が散見されます。しかし、現場の実情に踏み込むと、全く異なる厳格なスクリーニングの実態が浮かび上がります。
取材に応じた音大受験専門予備校の講師は、現場のシビアな内情をこう証言します。
「ネット上の『受かりやすい』という言説は、近年の少子化に伴う募集倍率の表面的な数値(1.0〜1.5倍前後)だけを切り取った極論です。国立音楽大学の実技試験では、各楽器の高度な課題曲演奏に加え、ソルフェージュ(聴音・新曲視唱)、楽典、副科ピアノが厳密に課されます。いくら共通テストで8割を取れていても、実技基準点(足切りライン)に1点でも届かなければ一発で不合格となります。これは一般大学の入試システムには存在しない絶対評価の壁です」
音大受験生の実質的な競争は、出願時ではなく「数年前の準備段階」から始まっています。専門の指導者について何年も音階練習、エチュード、楽曲分析を叩き込んできた志願者同士が競い合う場であり、準備不足の受験生はそもそも出願すら推奨されません。つまり、倍率が1.1倍であっても、その1.1倍の母集団全員が選ばれた実力者であるという前提を見落としてはなりません。
近年では学校推薦型選抜や総合型選抜(旧推薦入試)の定員枠が拡大しており、オープンキャンパスでの事前相談や夏期・冬期講習会を通じて早い段階から教授陣のレッスンを受け、適性を確認した上で出願するルートが主流となっています。一般入試のペーパー偏差値だけを見て「楽勝だ」と油断した受験生が、実技試験本番の緊張感に呑まれて涙を呑むケースは今も後を絶ちません。