アンダーグラウンドな掲示板の片隅に封じ込められていたはずのコンテンツが、なぜ一般層をも巻き込む国民的ミームへと変貌を遂げたのか。その決定的な転換点は、2008年以降の「ニコニコ動画」の台頭と、2010年前後の「なんでも実況J(なんJ)」への文化移植という2つのプラットフォーム変革にありました。
ニコニコ動画において、映像から登場人物の輪郭を切り抜いた「BB素材(ブルーバック素材)」が大量に制作・配布されたことで、MAD動画の制作ハードルが劇的に低下しました。動画制作者たちは、公式の検閲や削除をかいくぐるために高度な隠蔽工作や抽象化(いわゆる「クッキー☆」など派生コンテンツへの擬態や音MADへの再構築)を重ね、これが皮肉にもクリエイターたちの創作意欲を刺激する触媒となったのです。映像としてのグロテスクさを削ぎ落とし、リズムや視覚的ギャグとして再定義する職人文化が、サブカルチャーとしての寿命を異常に引き延ばしました。
並行して起きたのが、プロ野球実況を専門としていた「なんJ」への流入です。元々が野球選手のスキャンダルであったことから親和性が極めて高く、野球の勝敗やプレーに対する感情を表現する記号として語録が重宝されました。「なんJ語」と「淫夢語録」が複雑に交雑した結果、野球ファン以外の一般ネットユーザーに対しても、毒素を薄めたスラングとして日常的に流通するインフラが完成したのです。