役者を辞めた松重が選んだのは、建設現場での肉体労働だった。来る日も来る日も、コンクリートや鉄骨と向き合う日々。演技とは無縁の世界で、ただ黙々と体を動かした。約1年半に及ぶこの「空白期間」が、のちの彼の演技に決定的な深みを与えることになる。
転機は突然訪れた。現場の親方や周囲の人間は、松重がかつて役者をやっていたことを知っていた。ある日、作業の合間にかけられた「お前、こんなところで何やってるんだ。早くあっちに戻れ」という言葉。それは、諦めきれなかった彼の背中を強く押す決定打となった。自分が本当に生きるべき場所は、やはり泥臭い芝居の世界なのだと、彼は身をもって知ることになる。