人間を外見や素質から「潜在的犯罪者」として見分けようとする欲望は、決して新しいものではない。19世紀後半、イタリアの精神科医チェーザレ・ロンブローゾは、受刑者の頭蓋骨測定や身体的特徴の観察から「生来性犯罪者説」を唱えた。耳の形や額の傾斜、腕の長さといった身体的特徴から犯罪傾向を判別できるとする彼の主張は、当時のヨーロッパに熱狂的な支持と同時に深刻な優生思想をもたらした。
ロンブローゾの理論は、後の厳密な統計調査と科学的検証によって完全に論破された。頭蓋骨の形状と反社会性は何の関係もない。だが、その思想の残滓は形を変えて生き残り続けている。「あの見た目は怪しい」「この趣味を持つ人間は危険だ」という短絡的なレッテル貼りは、形を変えた現代の骨相学に他ならない。人間は分かりやすい敵を仕立て上げることで自らの安全を確かめようとするが、その認知バイアスこそが歴史上無数の冤罪と不当な弾圧を生んできた。