「鴨が葱を背負って来る」という言葉通り、この二者の相性は味覚のメカニズムから見ても完璧な設計です。しかし、ネギをただつゆに入れて煮るだけでは、名店の奥行きある風味には到底届きません。鴨そばのつゆを劇的に進化させる正体は、鴨脂でじっくり焼き付けたネギのメイラード反応にあります。
鴨ロースを焼いたフライパンには、旨味が溶け出した上質な鴨油がたっぷりと残っています。この脂を捨てずに使い、3〜4cm長さにぶつ切りにした長ネギ(白ネギ)を転がしながら強火寄りの中火で焼き付けます。表面全体にしっかりとした黒褐色の焦げ目がつくまで焼き上げることが極めて重要です。
焦げ目がつくことで生じる香ばしい含窒素化合物が鴨の脂と融合し、つゆに移った瞬間に単なる甘辛いつゆから立体感のある重厚な「鴨だし」へと変貌を遂げます。さらにネギ内部のとろりとした甘みが引き出され、鴨肉の濃厚な脂っぽさを爽やかに中和するアクセントとなります。