言葉の歴史を紐解くと、現代人が抱くイメージとの大きなギャップに驚かされる。
古代ギリシャの哲学者プラトンは、著書『饗宴』の中で、エロスを「不完全な人間が完璧な美や真理を慕う精神的な上昇エネルギー」として描いた。自分には何かが足りないという痛切な欠落感。それがあるからこそ、人は他者に惹かれ、学び、創造へと駆り立てられる。つまりエロスとは、人間を成長へと向かわせる純粋な推進力だったのだ。
時代が下り、20世紀初頭に精神分析学を打ち立てたジークムント・フロイトは、この概念を「生のエロス(生の本能)」と再定義した。単なる生殖活動の域を超え、個体と個体を引き寄せ、結びつけ、新しい価値を生み出そうとする建設的な力。私たちが朝起きて誰かと話し、絵を描き、事業を起こし、明日へ向かって歩み出す活力の根底には、常にこのエネルギーが脈打っている。