映画の記憶を追体験するなら、まずは物語の象徴的な舞台である艮神社を訪れたい。境内にそびえ立つ樹齢900年を超える巨大なクスノキは、和子と深町一夫が言葉を交わしたあの神秘的な空気を今も色濃く残している。木漏れ日が揺れる静寂の中に立つと、まるで時間が止まったかのような錯覚に包まれる。
登下校のシーンで印象的に使われた瓦坂や、民家の間を縫うように伸びる細い石畳の小道も見逃せない。大林監督は尾道の自然光と複雑な地形を巧みに利用し、あえて大掛かりな照明機材を使わずに独特の叙情的なトーンを生み出したという。観光客で賑わう千光寺周辺から少し離れた西國寺周辺の路地裏には、劇中の質感がそのまま残る静かな穴場が点在している。住民の暮らしが息づく生活道路でもあるため、静かに歩みを進めるのが聖地巡礼のマナーだ。