パナソニック、日立、三菱電機といった主要IHクッキングヒーターメーカーの取扱説明書には、トッププレートの上に市販の保護シートや焦げ防止マットを敷いて加熱しないよう明記されています。この警告を単なる「メーカーの過度な免責事項」と捉えるのは早計です。そこには製品安全工学に基づいた切実な理由が存在します。
最も深刻な危険性が、IHコンロカバーによる温度センサーの誤作動と火災リスクです。一般的なIHコンロは、トッププレートの下に配置された赤外線センサーやサーミスターによって鍋底の温度をミリ秒単位で検知し、適切な火力制御や空焚き防止の自動停止を行います。しかし、鍋とガラス天板の間にシリコン製マットや不燃紙が挟まると、熱伝導のタイムラグや遮熱が発生し、センサーが実際の鍋底温度より低く誤認してしまいます。
特に危険なのが天ぷらやフライなどの揚げ物調理です。油の温度が規定の180度〜200度に達しているにもかかわらず、センサーが「まだ低温である」と誤認してフルパワーで加熱を続けた結果、油の発火点(約370度前後)を一気に超えて激しい油火災を引き起こす事故が、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)や各自治体の消防局によって多数報告されています。
もう一つのトラブルが、トッププレートへの熱融着と焼き付き現象です。安価なシリコンマットや薄型シートを長期間敷きっぱなしにすると、鍋底の局所的な超高温によってカバー素材が溶け出し、結晶化ガラスプレートに焼き付いて一体化してしまいます。こうなると専門業者による天板交換(費用相場:3万〜6万円程度)を余儀なくされるケースもあり、「焦げを防ぐはずが天板を完全に破壊した」という本末転倒な事態に陥る利用者が後を絶ちません。