『振り返れば奴がいる』を語る上で避けて通れないのが、連続ドラマ最終回の幕切れです。宿命のライバルであった石川の手術を担当し、救命できなかった司馬。病院を追われ、私物を詰めた段ボールを抱えて夜の路地を歩く司馬の背後から忍び寄り、無言で刃物を突き立てたラストの犯人は、平賀医師(西村雅彦)でした。
司馬が刺された理由は、作中で徹底的に描かれた平賀に対する心理的・職業的虐待に起因します。平賀は自らの技術不足や保身から司馬に弱みを握られ、医療ミスの身代わりをさせられたり、日常的に平手打ちや罵詈雑言を受けたりと、徹底したスケープゴートにされていました。組織の底辺でプライドを粉々に踏みにじられ続けた男の、抑圧された狂気と復讐心が臨界点に達した瞬間でした。
しかし、この結末には脚本・制作上の決定的な舞台裏が存在します。当時、脚本を担当した三谷幸喜は、自身のルーツである軽妙なシチュエーションコメディのトーンを模索していました。しかし、現場の熱量とシリアスな演出方針が優勢となる中で、主演の織田裕二が「これだけ悪事を重ねて人を踏みにじってきた司馬が、何事もなかったかのように去っていくのは絶対に納得がいかない。司馬を死なせてほしい」とプロデューサー陣に強く進言したのです。
自らの悪行に対する因果応報を背負い、夜空を見上げながら「あいつ(石川)が呼んでいるのか……」と呟いて崩れ落ちるラストシーンは、予定調和を破壊する織田裕二の役者魂が生んだ奇跡的なクライマックスでした。