カフカ新訳から放浪の美学へ――池内紀が言葉に託した自由の真実

カフカ新訳から放浪の美学へ――池内紀が言葉に託した自由の真実

カフカ新訳から放浪の美学へ――池内紀が言葉に託した自由の真実にまつわる興味深い視点を分かりやすく発信ます。

1990年代半ば、日本の言論界に走った激震を今も鮮明に記憶している読者は少なくないだろう。東京大学教養学部の教授という、学問の世界における頂点ともいえるポジションを、彼は自らの意思で潔く退いた。定年を待たずしての辞任劇は、保守的な出版・学術界に小さからぬ波紋を広げた。

名誉や肩書に安住することを何よりも警戒した彼にとって、大学という制度の中に留まり続けることは、自らの感覚を鈍らせる危うさと隣り合わせだった。会議や管理業務に追われる日々を捨て、一介の「物書き」として生きる道を選んだ決断の根底には、何ものにも縛られずに言葉と向き合いたいという強烈な表現者の本能があった。権威の座をあっさりと手放したその身軽さこそが、以後の執筆活動に比類なき自由さと独特の味わいをもたらす契機となったのである。

小林 直樹
Author

小林 直樹

シンプルで洗練された住まいづくりとインテリアコーディネートのアイデアを提案しています。