時代を下った現代のスクリーンにおいても、「クジラ」という存在は強力な象徴として機能している。ダーレン・アロノフスキー監督による映画『ザ・ホエール』は、その最たる例と言えるだろう。社会から孤立し、過食によって体重が増え続けた主人公の葛藤を描いた本作は、世界中で大きな話題を呼んだ。
主演を務めたブレンダン・フレイザーの迫真の演技は絶賛を浴び、アカデミー賞主演男優賞を受賞した。劇中において「クジラ」という言葉は、主人公の外見的特徴を揶揄する残酷な言葉であると同時に、彼が愛読する『白鯨』のエッセイを通じて、救済と自己受容を象徴する多層的なメタファーへと昇華される。
映画の中で交わされるセリフの端々に込められた意味を理解したとき、観客は単なる悲劇を超えた人間の尊厳に触れることになる。ポップカルチャーの中に生きる言葉の力を実感させる、現代屈指の名作だ。