松本市美術館の最大のアイデンティティは、同市出身の草間彌生(くさま やよい)氏の常設展示にあります。館内に足を踏み入れる前から、赤と白の水玉模様で覆われた外観や自動販売機、ベンチが視界に飛び込み、施設全体がひとつの表現空間であることを強烈に印象づけます。
展示室では、松本時代に描かれた貴重な初期の日本画・素描から、ニューヨーク進出期に確立された「無限の網(インフィニティ・ネット)」シリーズ、そして世界中を熱狂させた立体作品やミラールームまで、表現の変遷を体系的に辿ることができます。自著や過去のインタビューで「幼少期に見舞われた幻覚体験から逃れるために絵を描き始めた」と語られている通り、彼女の魂の叫びともいえる圧倒的なエネルギーが作品群から直接伝わってきます。
特に鏡と電球が織りなす幻想的な空間体験型インスタレーションは、単なる視覚鑑賞を超えて鑑賞者自身の境界線が溶け出すような感覚をもたらします。展示作品は定期的に一部入れ替えが行われており、リピーターであっても常に新たな発見が得られる構成となっています。