ネット上でしばしば見られる誤解の一つに、「アームが長いホッチキスさえ買えば、どんな厚い本でも綺麗に製本できる」という言説があります。しかし、これは製本工学の観点から明確な誤りです。
盲点となるのは「中綴じホッチキス針の向き」と「小口のせり出し(クリープ現象)」です。中綴じ製本における針は、背表紙の外側から芯を打ち込み、冊子の中心見開き側で針の足を内側に折り曲げるのが鉄則です。これを逆向き(内側から外側)に打ってしまうと、外側に針の足が飛び出して読者が指を怪我するリスクがあるばかりか、背表紙の強度が著しく低下します。
さらに見落とされがちなのが、紙の厚みがもたらす物理的ズレです。見開き20枚(80ページ)を超える冊子を2つ折りにすると、内側のページが外側のページよりも数ミリ外側へ飛び出します。どれほど高級なホッチキスで中心を正確に留めたとしても、この厚みによる「背の膨らみ」を計算して折り目をヘラなどでしっかり潰さない限り、針が途中で折れ曲がり、ページが脱落する原因となります。