ネットやSNSで定期的に拡散される「納豆と生卵の食べ合わせ最悪説」。この言説の根拠となっているのが、生の卵白に含まれる糖タンパク質「アビジン」と、納豆に豊富に含まれるビタミンB群の一種「ビオチン」の相互作用です。
生化学的なメカニズムとして、アビジンはビオチンと非常に強く結合する性質を持っています。胃腸内で両者が結合すると「アビジン・ビオチン複合体」を形成し、ビオチンが腸管から吸収されずに体外へ排出されてしまいます。ビオチンは皮膚や粘膜の健康維持、髪の毛の生成、アミノ酸や脂質の代謝に関わる重要な補酵素であるため、「白身のせいで納豆の美容・健康効果がゼロになる」という極端な言説へと飛躍して広まったのが事の真相です。
しかし、たまごの専門機関や栄養疫学の専門家が公表している見解によると、「日常的な食生活において、全卵1個と納豆1パックを同時に食べてもビオチン欠乏症に陥る心配はまずない」と結論づけられています。
ヒトの体内では、腸内細菌叢自身が日常的にビオチンを合成・供給しています。さらに、卵白のアビジンによってビオチン欠乏(皮膚炎や脱毛、食欲不振など)を引き起こすには、「1日あたり生の卵白を数十個分、数ヶ月にわたって単独過剰摂取し続ける」といった極端な実験レベルの条件下でなければ発生しません。納豆の他の豊富な栄養素(納豆キナーゼ、大豆イソフラボン、食物繊維、大豆タンパク質)は何ら阻害されることなく体内に吸収されるため、「栄養が完全に台無しになる」という言説は明らかな誇張です。