狸谷山不動院に対して「怖い」「不気味だ」という印象を持つ人が多い背景には、主に3つの視覚的・環境的要因が存在します。幽霊が出没するという根拠のある心霊現象ではなく、修験道の聖地が放つ圧倒的な異空間の迫力が原因です。
第1の要因は、山門をくぐった参道沿いに立ち並ぶ無数の狸の置物です。信楽焼で作られた大小さまざまな狸像が鬱蒼とした杉木立の影から参拝者をじっと見つめており、夕暮れ時や天候の悪い日には独特の怪奇的な雰囲気を醸し出します。静まり返った山中に数多の視線を感じる感覚が、訪れた者の心理的な恐怖を刺激します。
第2の要因は、本堂が自然の岩窟(洞窟)を包み込むように建立されている構造にあります。薄暗い洞窟の奥深くに鎮座する本尊「狸谷不動明王」は、憤怒の形相で悪霊や煩悩を焼き尽くす不動明王そのもの。堂内に漂う立ち込める線香の煙と護摩供の煤(すす)、岩肌の冷気が相まって、一般的な明るい観光寺院とは一線を画す厳粛さを放ちます。
第3に、京都・一乗寺の山裾に位置し、かつて剣豪・宮本武蔵が「一乗寺下り松の決闘」を前に滝行で精神を研ぎ澄ましたとされる「宮本武蔵修行の滝」など、厳しい修行の歴史が刻まれている点です。浮ついた観光気分を跳ね除けるような張り詰めた空気感が、感受性の強い人々に「怖いほどのパワー」「心霊的な圧」として体感される要因となっています。