各客室を巡ると、一室として同じデザインが存在しないことに驚かされる。障子や欄間に施された細やかな組子細工は、職人が己の持てるすべての技法を注ぎ込んだ証だ。太陽の光が格子を抜けて畳に落とす繊細な影は、時間の経過とともに刻々と形を変えていく。
特筆すべきは、昭和初期の職人によって作られた手吹きガラスが、今なおそのままの姿で大切に守られている点だ。厚みがわずかに不均一で、表面がやわらかく波打つガラス越しに見る外の風景は、まるで記憶の中の温かな景色のように歪んで映る。量産化された現代建築では決して再現できない手工芸の極致がここにある。