そもそも、わずか数メートルの土の盛り上がりや岩場が、なぜ公的な地図に「山」として認められるのでしょうか。国土地理院における山の認定基準は、一般に想像されるような「標高〇〇メートル以上」という数値基準ではありません。
国土地理院の規定において、2万5千分の1地形図に山として記載されるための主な要件は以下の3点に集約されます。
- 地元自治体等からの公的な要望や認定があること
- 地域住民の間で古くから固有の「山」として慣称・呼称されている実態があること
- 写真測量や現地調査によって周囲から明確に独立した地形として確認できること
地形図の編集において決定的な目印となるのが、文字のフォントです。国土地理院の地図では、山名や主要な峰の名前を表記する際、「聳肩体(しょうけんたい)」と呼ばれる独特の書体が用いられます。これは垂直線に対して水平線を右肩上がりに傾けた特殊な文字意匠であり、地図上でこの聳肩体で名称が刻まれているかどうかが、公的に「山」としてオーソライズされているかどうかの境界線となります。
元国土地理院の技術者である関義治氏が全国の低山を網羅的に調査・発表して以来、この「地形図上の聳肩体表記」が低山愛好家や研究者の間でのデファクトスタンダードとなりました。いかに低くとも、歴史的な呼称と公的な認定をクリアした地点だけが、国の記録に名を刻むことを許されているのです。