ロシナンテが迷い込んだのは、地上から約3メートル下を走る、無人高速シャトル用の専用チューブだった。時速40キロメートルで荷物を運ぶコンテナが、数秒おきに行き交う危険極まりない空間だ。
通常、このエリアは人間も動物も立ち入り禁止であり、侵入者を検知するシステムが作動するはずだった。しかし、ロシナンテの体重はわずか6キログラム。システムはこれを「風で飛ばされたゴミ」と誤判定し、運行を停止しなかった。暗闇と、絶え間なく響く機械音。ロシナンテは恐怖のなか、シャトルが通過する風圧に耐えながら、退避用のわずかな窪みに身を潜めていたとみられる。
防犯カメラの映像にも映らない地下の迷宮で、ロシナンテの生存率は時間とともに低下していった。物流を止めなければ、命の保証はない。しかし、特区の物流ラインを止めるには、多額の損害賠償と行政への申請が必要という壁が立ちはだかった。