民放各局が配信事業の収益化に舵を切るなか、なぜMステの見逃し配信は解禁されないのでしょうか。番組関係者やエンタメ法務の知見を総合すると、そこには音楽番組ならではの極めて過酷な権利処理の壁が存在しています。
ドラマ番組であれば、出演俳優や脚本家、制作会社との間で「放送+配信(二次利用)」をパッケージ化した出演契約を事前に締結できます。しかし、生放送の音楽番組であるMステは、まったく異なる力学で制作されています。
1. 原盤権とレコード会社の壁:1回の放送に登場する5〜8組のアーティストは、それぞれ異なるレコード会社に所属しています。各レーベルが保有する原盤権(録音された音源そのものの権利)や生演奏のネット配信許諾を1番組のために毎週全局でクリアすることは、莫大な交渉コストと契約上の制約を伴います。
2. 実演家の著作隣接権と肖像権:アーティスト本人はもちろん、バックバンドのミュージシャン、サポートダンサー、さらにはSTARTO ENTERTAINMENTやK-POP大手事務所、海外招聘アーティストなど、所属事務所ごとの肖像権ガイドラインが大きく異なります。海外レーベルの場合、日本国内限定のネット配信に対して巨額の許諾料を要求するケースも珍しくありません。
3. 楽曲の著作権(JASRAC・NexTone)と同期権:生演奏やカバー歌唱をネット動画としてアーカイブ配信する場合、地上波の放送包括許諾とは別枠で「インタラクティブ配信(公衆送信権)」の許諾手続きが必要です。権利者が多岐にわたるメドレー企画や過去映像のVTR企画では、1曲でも許諾が下りなければ番組全体の配信がストップしてしまいます。
これらの許諾手続きにかかるコストと労力は、無料見逃し配信で得られる広告収入(アドレベニュー)を遥かに上回ってしまいます。結果として、「地上波の生放送で完結させること」が最も合理的かつ高品質な生ライブを届けるための選択となっているのです。