F1史上で最も凄惨な事故の一つとされるサンマリノGPにおいて、多くの人々が疑問に抱いたのは「モノコック(車体構造)が原型を留めていたにもかかわらず、なぜセナは即死に近い状態に陥ったのか」という点でした。事故直後のマシンは右側を激しく大破していたものの、サバイバルセルと呼ばれるドライバーの生存空間自体は破壊されていませんでした。
医学的見地から判明しているアイルトン・セナの死因(直接原因)は、衝突の衝撃そのものによる全身強打ではなく、跳ね上がったマシンの破片による頭部への物理的ダメージです。コンクリートウォールへ時速約210kmで衝突した際、ちぎれ飛んだサスペンション破損によって金属製のアーム(ウィッシュボーン)が跳ね上がり、セナの頭部を直撃しました。
鋭利なパーツはヘルメットのシールド上部を貫通し、前頭部から右側頭部にかけて深刻な開放性頭蓋骨骨折と脳損傷を引き起こしました。さらに、衝撃で跳ね飛ばされた右フロントホイールがヘルメットを後方に強打したことで、致命的な頭蓋底骨折と側頭動脈の断裂を併発。現場に駆けつけたF1医療責任者のシド・ワトキンス医師が気道確保と応急処置を施した段階で、神経学的にはすでに回復不能な状態であったことが記録されています。