「名店の焼き鳥は、持ち帰って冷めても肉が硬くならず、旨味が凝縮している」——食通たちが口を揃えてそう語る背景には、緻密な水分コントロールが存在する。『食べログ』で全国トップの評価を誇る東京・目黒の名店『鳥しき』の店主・池川義輝氏は、串と炭の距離を極限まで近づける「近火の強い火」で肉の表面を一瞬で皮膜化する技法で知られる。
肉内部の水分が水蒸気となって逃げ出す前に外側を固め、肉汁を風船のように内部へ閉じ込める。さらに、炭に落ちた脂が煙となって舞い戻り、肉の表面に脂の極薄い膜(乳化層)を形成する。この脂のコーティングが冷めた後も肉の乾燥を防ぎ、ゼラチン質と旨味成分を肉質内に留め続けるのだ。冷めてもジューシーという奇跡は、物理現象を熟知した職人の高度な技術によってもたらされている。