厨房でのアプローチにも正反対の哲学が宿っています。違いが最も顕著に現れるのが、「使用する牛肉の部位」と「煮込み時間」です。
ハヤシライスに用いられるのは、牛バラ肉やモモ肉の「薄切り・こま切れ」です。薄切り肉とスライスした玉ねぎを強火で手早く炒め、酸味を残したソースで短時間(15分〜30分程度)煮込んで仕上げます。手軽にサッと作れるクイックメニューとしての性格を持っています。
これに対し、ビーフシチューは牛すね肉、牛テール、牛肩ロースなどの「大ぶりな角切り肉」が主役です。コラーゲンやスジが多い部位を香味野菜や赤ワインとともに数時間かけてじっくり煮込み、繊維がスプーンで崩れるほど柔らかく仕上げます。小麦粉とバターを焦がさないよう丹念に炒め上げて作る本格的なブラウンソース(ルー)の香ばしさが、長い煮込み時間を経て肉の脂と一体化します。