名曲の題材となったヨーゼフ・ラデツキー将軍(1766〜1858年)は、ハプスブルク帝国陸軍の元帥です。1848年、ヨーロッパ全土を揺るがした「三月革命」の動乱の中、オーストリア領だった北イタリアで起きた独立蜂起をクストーツァの戦いで鮮やかに鎮圧。当時82歳という高齢でありながら帝国を守り抜いた英雄として、ウィーンの保守派市民から熱狂的な歓呼を受けました。
「ワルツの父」として知られるヨハン・シュトラウス1世は、皇帝擁護の立場からラデツキー将軍の勝利を祝う祝勝祝典の音楽を依頼され、わずか数日でこの行進曲を書き上げました。導入部のファンファーレに続く軽やかなリズムは、過酷な戦場描写ではなく、凱旋する将校たちの華麗なパレードを想起させる設計になっています。
興味深いことに、この時期シュトラウス一家は政治的分断の危機にありました。皇帝派の父シュトラウス1世に対し、息子のヨハン・シュトラウス2世は学生革命派を支持して『革命行進曲』を作曲。親子で政治陣営が真っ向から対立する中で生まれたという背景も、この楽曲が持つドラマ性を際立たせています。