作中に登場するキャラクターたちの造形もまた、従来の文芸作品とは異彩を放っている。代表的なキャラクターである建築学科助教授の犀川創平は、熱血漢の探偵とは対極に位置する人物だ。煙草をくゆらせ、浮世離れしたクールな論理思考を展開しながらも、どこか人間味を感じさせるその立ち振る舞いは、多くの読者を魅了した。
彼と学生の西之園萌絵が繰り広げる会話のやり取りは、洗練された知性の応酬そのものである。ロジックと計算に基づいた謎解きは、日本のミステリ界に「理系ミステリ」という明確なジャンルを確立させた。感情的なドラマに流されない冷徹なまでの美学が、いまなお色褪せない魅力を放っている。