1940年代にオーストリアの小児科医ハンス・アスペルガーによって報告された特徴は、現代の精神医学において大きく再定義されている。かつて「アスペルガー症候群」と呼ばれていた病態は、現在アメリカ精神医学会(APA)が発行する『DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)』において、自閉スペクトラム症(ASD)という広範なカテゴリーに統合された。知能や言語発達に目立った遅れがないため、大人になるまで特性が見過ごされるケースも少なくない。
定型発達の人々にとって「謝罪」とは、たとえ自分に100%の過失がなくとも、場の空気を和らげたり相手の不快感に寄り添ったりするための潤滑油だ。社会的な調和を保つための儀式といってもいい。しかし、ASDの特性を持つ人々にとって、言葉は感情の調整弁ではなく「客観的事実を伝達するツール」にほかならない。「事実として間違っていないのに、なぜ謝らなければならないのか」という思考回路が、瞬時に立ち上がる。
彼らにとって、事実と異なる謝罪をすることは「嘘をつくこと」と同義であり、強い認知的負荷や不快感を伴う。決して相手を傷つけようと意図しているわけではない。見えている世界の解像度と前提条件が、根本から食い違っているのだ。