事件の象徴として語り継がれてきたのが、人気歌舞伎役者・生島新五郎と、大奥の権力者であった絵島(江島)との色恋沙汰だ。密会スキャンダルとして語られがちなこの男女のドラマは、果たしてどこまでが真実なのだろうか。
当時の記録によれば、絵島が山村座を訪れたこと自体は事実である。だが、二人が私通に及んだという疑惑については、拷問に耐えかねた自白以外の客観的証拠が極めて乏しい。むしろ後世の劇作や物語が、二人の関係をセンセーショナルに色付けしていった側面が大きい。生島新五郎は三宅島へ流罪となり、山村座は廃座へと追い込まれた。一人の役者の失脚としてはあまりに苛烈であり、個人の恋愛沙汰という範疇を完全に逸脱している。