「慢性膵炎は一度発症すると二度と治らないのか?」という切実な問いに対し、病理学的な回答は「失われた組織の再生という意味では治らないが、進行を食い止めて寛解状態を維持することは可能」となります。
慢性膵炎が治らない理由は、炎症によって活性化した「膵星細胞(すいせいさいぼう)」が大量のコラーゲン線維を産生し、毛細血管や腺房細胞を締め付けながら不可逆的な線維化を完成させてしまうためです。現在の再生医療技術を用いても、硬化した膵臓組織を元の柔らかな腺組織に戻すことは実用化に至っていません。
しかし、そこで悲観して治療や管理を放棄することは最大の危険を招きます。次に直面するのが慢性膵炎の寿命と予後に関する現実です。
多施設共同研究の追跡調査によると、慢性膵炎患者の予後を左右する二大リスクは「膵性糖尿病の合併」と「膵がんの発生」です。
膵臓の内分泌細胞が破壊されると慢性膵炎による糖尿病の合併症(3c型糖尿病)を発症します。この糖尿病は、インスリンだけでなく血糖を上げるグルカゴンも同時に枯渇するため、「重篤な低血糖」と「高血糖」を極端に乱高下しやすく、一般的な2型糖尿病よりも血糖コントロールが難渋するという臨床的特徴を持ちます。
さらに、慢性膵炎を患っている患者は、一般集団と比較して膵臓がんの発症リスクが約8〜12倍高まることが疫学的に立証されています。早期に適切な治療を開始し、定期的なCTや超音波内視鏡(EUS)による画像サーベイランスを継続することこそが、健康寿命を健常者と同水準に保つ決定的な防壁となります。