社会言語学やコミュニケーション心理学の観点から掘り下げると、なぜプロポーズにおいて「丁寧すぎる表現(Would)」が裏目に出るのか、その構造的理由が明確になります。
言語学者ペネロピ・ブラウンとスティーヴン・レヴィンソンが提唱した「ポライトネス理論(Politeness Theory)」において、敬語や控えめな助動詞(Would, Could)は、相手の「ネガティブ・フェイス(自分の領域を侵害されたくない欲求)」に配慮し、あえて心理的距離(バウンダリー)を置くためのツールとして定義されています。ビジネスシーンや初対面の相手、あるいはカフェの注文で「Would you〜?」「I would like〜」が推奨されるのは、相手との間に適切な社会的境界線を引くためです。
しかし、プロポーズという行為は、ふたりの心理的バウンダリーを完全に融解させ、人生をひとつに統合する究極の親密化(intimacy)のプロセスです。そのような場面で「Would you〜?」という距離を置くポライトネスを過剰に働かせると、心理学的には「拒絶された時の痛みを和らげるための自己防衛(ディフェンシブ・メカニズム)」として相手の無意識に検知されてしまいます。
かつて英王室や貴族社会の階層意識のなかで重用された「Would」が、現代の民主的かつオープンな対話環境において敬遠されるのは、言葉のポライトネスが「よそよそしさ(coldness)」へと転化してしまうからです。日本の「お見合い文化」において、形式張った敬語で求婚された女性が「誠実だがどこか他人行儀で情熱を感じない」と評するのと、全く同じ心理力学が英語圏でも働いています。