白頭山が日本列島に与える影響の凄まじさを物語る動かぬ証拠が、西暦946年頃に発生したとされる通称「千年噴火」の地質学的記録です。この噴火は過去2,000年間に地球上で起きた火山活動の中で最大級(火山爆発指数VEI7)と認定されており、噴出物の総量は推定100立方キロメートル近くに達しました。
地質学者の町田洋教授らによる画期的なテフラ研究によって、北海道から東北地方全域、さらには朝鮮半島や日本海海底の地層から、白頭山起源の特異な火山灰層「白頭山-苫小牧テフラ(B-Tm)」が発見されています。驚くべきことに、青森県や岩手県の古地層からは約5センチ前後、北海道の苫小牧周辺でも数センチの厚みを持つ純白の火山灰層が今なお明確に確認できるのです。
この天変地異は、当時の日本人の肉声としても古文書に刻まれています。平安時代の朝廷記録である『日本紀略』の天慶9年(946年)11月3日の条には、次のような生々しい記述が残されています。
「この日、空に雷のような異様な轟音が鳴り響き、灰降りて雪の如し」
都の人々が冬の初雪と見まがうほどの火山灰が降り注ぎ、遠く離れた京都の貴族たちすら大地を揺るがす空振と空の異変に怯えていたことが分かります。
さらに深刻だったのが、成層圏に達した大量の二酸化硫黄(SO2)が生成した硫酸エアロゾルによる地球規模の日射遮断(火山の冬)でした。極地方の氷床コア分析によれば、千年噴火の直後から北半球の平均気温が約1〜2℃低下したと推計されており、世界各地で異常低温と凶作、それに伴う飢饉が発生した歴史が科学的に裏付けられています。